留学生とみる吉田寮

留学生とみる吉田寮

 

留学生とみる吉田寮

 吉田寮には様々な背景をもった寮生がともに生活しています。その中には当然、私のように日本で生まれ日本の学校を出た人間だけでなく、海外から留学してきた寮生も含まれています。異なる背景、異なる価値観を持つ人間同士が協働して、しかも誰もが快適に暮らしていくことは決して容易ではないですが、まずは相手がどのように考え、どのように生きているのかを知りあうことで、その一歩目を踏み出すことになるのではないでしょうか。同時に、いまこのページを開いてくださった読者の方々にも、その語りを垣間見て「吉田寮」とそこに住む寮生のことについて少しでも関心を持ってもらえればと期待しています。

登場人物

hrai        本稿の編集者。東京出身で昨年入学&入寮。人間と社会、言語などの関係について興味があって京大総合人間学部へ。夕方のスーパーに半額食料品を探しに行くのが好き。

Suzu Tong         中国出身で理学研究科と防災科学技術研究所に所属。専攻は大気科学で、とくに東アジアのモンスーンやバウについて。「食彩の王国」、「ドキュメント72時間」、「月曜から夜ふかし」が好き。

寮生A         様々な文化の中で生まれ育つ。大学院生。時間のあるときには寺を訪れたりハイキングをしたりして自然に触れるのが好き。

Raj         インド出身。農学を専攻しており、趣味はサイクリング。研究のために岩手に住んだのちに京都へ移り、そこで吉田寮へ入寮。

Léo        フランスのパリジャン。伝統的農業、歴史、(政治家でなく)政治、そして文化、特に消えゆく文化を深く愛している。元寮生。

hrai        こんにちは! 自己紹介は済んだところで、いきなりひとつめの質問です。「吉田寮のことをどこで知り、どうして入寮しようと思ったのですか?」

Tong        日本に来る前に吉田寮のドキュメンタリーを見て、興味を持ったんです。いつか日本に住みたいと思っていたところ、日本に住む友人と知り合い、吉田寮のことをもっと知る中で、寮生として暮らすことにより興味がわきました。

hrai        ドキュメンタリーで! 実は私自身も、ねとらぼというウェブサイトで吉田寮が取材されているのを見て、はじめて寮の存在を知ったんですよね。広報の重要性を痛感します…

A        知人の紹介で吉田寮のことを知ったのですが、入寮する以前から吉田寮にはよく来ていました。入居している住人の気質が好きだと感じました。

hrai        吉田寮に入る前、入ったばかりのころは謎に包まれる寮の雰囲気がなんだか怖く感じるけれど、物事をよく考えて異なる意見を尊重する雰囲気があって、みんな話していて楽しい人たちなりますね。

Raj        正直なところ引っ越しには抵抗があったものの、経済的な事情もあり、やむなく引っ越しました。しかし、1週間もしないうちにこの町が大好きになり、良い友達もたくさんできました。ここで一番気に入っているのは表現の自由です。

hrai        やはり寮費が安いのはかなり魅力的ですね! 実際、私も寮があるおかげでバイトの時間を減らして大学生活を充実させられている部分があるので、本当に助けられています…

Léo        5年ほど前、岡崎公園でのイベントでブラジル音楽のバンドでドラムを演奏していた時のこと。ライブの後、友人が寮の食堂の前にあるティピーでコーヒーを一緒に飲もうと誘ってくれました。暖かい春の日でした。寮の古い木造建築、ジャングルのような寮の中庭で鳥やアヒル、孔雀が自由に暮らすエキゾチックな光景に魅了されました。そのときから、吉田寮に住むことが夢でした。

hrai        素晴らしい思い出ですね! もはや近くに動物がいる生活が当たり前のように感じてしまっているけれど、初めて見たときは「本当にここが大学の中なのか?」と驚いた記憶。

hrai        では次の質問。「吉田寮は寮生自身によって運営される自治寮ですが、皆さんはどんな自治活動に参加していますか?」

Tong        リサイクル局に所属しており、ときどきみんなでリサイクル品を回収します。ただ、総会(※編集注:寮自治会全体の会議)に直接参加することはほとんどありません。たまにzoom会議で参加する程度です。その理由としては、日本語があまり上手ではないので会議全体を把握できないことと、博士課程の学生なので時間がないことです。

hrai        吉田寮には少なくない数の留学生が住んでいるけれど、言語の壁は依然として大きな問題のひとつですね。私の所属する言語支援局は、各自の日本語能力によらず、寮内の情報にアクセスしたり自治活動に参加できたりするように、(まさにこの記事のように)文書の翻訳などの業務を担当していますが、正直その達成度はまだまだというところです。

Léo        寮の自治について、できることはすべてやってきました。ただ、自治は通常の寮の集まりに限られたものではないです。日本語が不自由な人や新入生にとって、手続きや儀式的な集会はかなりハードルが高いし、先輩寮生のような自信と経験はありません。そのような状況を改善するという点では、寮のコミュニティは最高かつ唯一の資源です。話し上手な日本人の仲間とともに新しい補助金を提案する、裁判に参加して英語で証言をする、古い建物の改修に参加する、鶏を育てて数円で卵を売る… こうしたさまざまなレベルの活動が、運動に良い影響を与えてきたと思います。

hrai        対等な寮生による対話というのは吉田寮で重視されていることですが、自由に対話をしていこう! と言って完全に放任していると、力のある寮生の意見ばかりが通ってしまうことになりかねないので、そもそもの環境づくりについても考えていかねばならないですよね…

hrai        なんともう最後の項目です。日本や日本に住む人々について感じることを教えてください!

Tong        日本人は、外国人に対して超親切で、温厚で、非常に気立ての良い人たちだし、ものづくりの精神は本当に素晴らしいと思います。ただその一方で、時々頑固で、少しも遠慮がありません。それに、日本の母親はほとんどすべての家事をしなければならず、大変です。

A        日本人は、助け合いやお年寄りへの敬愛などの点で、私の国の人とよく似ていると思います。ただ、日本人は一般的にとても控えめな性格なので、ときに、親しくなるのが難しいことがあります。また、日本人の労働意欲には驚きました。学校生活や仕事の進め方も自分が親しんできたものとは異なっていて、慣れるのに時間がかかるということはありますが、やはりどちらにも、良い面と悪い面の両方があると思います。

Raj        日本の労働文化はインドと大きく異なっていて、日本人はまるで自分の仕事と結婚しているかのようです。インドでは、勤務時間中だけ働き、それ以外の時間は友人や家族と過ごすのですが、最近は人々がますます怠慢になっているので、日本の労働文化がほんの少しくらい伝わればと思います。また、日本は携帯電話やゲームといった娯楽が中心になっていますが、それだけでなくリアルタイムの人と人との活動も普及してほしいと思います。

おわりに

インタビューに協力してくださった皆様、そしてここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。本当は興味深い回答がもっとたくさんあったのですが、紙面の都合上(あるいは私hraiの多忙により)割愛いたします。あらゆる点で違う人間が協働して暮らす、そんな吉田寮に少しでも興味をもっていただけたでしょうか。そうでありますように!(文責:hrai)